夏は暑いし湿度が高い。そんなことは百も承知だ。ここ数日、暑く湿気が気持ち悪い日々が続き、いつもよりもイライラが増している。ちゃんと言っておくが、いつも理由なくイライラしているわけではない。ただここ最近のイライラは暑さだけでなく、隣の奴も理由としてあるんじゃないかというような気もする。隣の奴、。しばらく席替えをしていないから、もうだいぶ長く隣である。よく「宮地くん宮地くん」と声をかけてきては「このお菓子すっごくおいしいんだよ!宮地くんにもあげる!」とふにゃっと笑いお菓子を押し付けてきたり、「この問題わかんないから教えてくれないかな…?」と上目遣いで聞いてきたりする。はっきり言って迷惑だ。迷惑だが、何だかんだで断れない自分もいる。それで最近はも暑いのか、よく授業中にスカートを少したくし上げパタパタと扇ぐことをする。普段の立った状態なら見えないような太ももが見えてしまっている。おいそんなにめくったら見えんだろーが馬鹿かこいつ。見せたいのか?見せたいとか馬鹿か?アホか?それとも何なんだ?言っておくが俺はこいつの太ももにまったく興味などない。しかしどうしても目に入るのだ。なぜこいつはこんなにも無防備なんだ?イライラする。イライラしすぎてついに俺は授業の合間の休み時間に言うことにした。

「おいそんなにスカートめくり上げてると中見えんだよ」

 一瞬きょとんとした顔を見せたが、すぐにいつものようにふにゃっと顔を崩し笑った。

「スパッツはいてるから大丈夫だよ!」

 ちげーよおいそういう問題じゃねえんだよ!俺は心の中で叫ぶ。当然ながら相手には伝わらない。イライライライラ。スパッツはいてるから大丈夫だとか、そういうことじゃねえんだよ。見えてんだよ足が。足っつーか太ももが。俺は想像しないが、健全な男子高校生だったらきっと喉を鳴らしてその中を、その上を、想像しちまうぞ。もう一度言うが、俺は想像しない。

「どうしたの宮地くん?」
「何でもねえよ」
「でもどう見てもイライラしてるよ?」
「してねえよ」
「してるよ!宮地くんカルシウム足りてないんじゃない?あっ私小魚アーモンド持ってるよ!」
「いらねえよ!!余計なお世話だよ!!」
「えっ小魚アーモンド嫌いだった!?」
「そういうことじゃねえんだよ!!」
「あ、よかったら牛乳買うよ!」
「そういうことじゃねえっつってんだろ!!!」

 がショックを受けたような顔をし、眉を下げしょんぼりする。内心うっとした。俺はこういう顔に弱い。弱いというか、あからさまにしゅんとした雰囲気を出されると悪ィことしちまったかな、とぎくりとしてしまう。

「小魚アーモンドも牛乳も嫌いだったかなぁ…」

 まさにしょぼーんというあの顔文字のようにしゅんと萎れている。何だか、「私のこと嫌いだったかなぁ…」と言われているようで、再びうっとした。と思ったら無意識に口をついて出ていた。

「うるせー好きだよ轢くぞ!!!」

 は?俺は何を言っているんだ、何を。俺は今何に対して好きだと言ったんだ。小魚アーモンドか?牛乳か?それとも、それとも。うわ何だ俺気持ち悪ィ。何言ってんだ。俺はぐしゃぐしゃと頭を掻く。
 が先程までの暗い顔を一転させ、ぱぁっと顔を明るく輝かせて「そっかあ!よかったあ、じゃあ小魚アーモンドあげるね!」と口元を綻ばせ鞄をがさごそあさる。何喜んでんだよ。俺は小魚アーモンドの話も牛乳の話もしてねえんだよ。そもそもキレながら小魚アーモンドとか牛乳好きとかぜってえ言わねえよ。そこまでアホみたいなことしねえよ。

「はい!あとで牛乳も買ってくるね!私に任せて!」

 満面の笑みで小魚アーモンドを渡された。うん、嫌いじゃねえけどさあ、まあいっか。もらっとく。




アナザーアンサー


「はい!牛乳!」
「…」
「宮地くん…?」
「うん、まあ、さんきゅ」
「宮地くんのイライラ治るといいね!」
「…」


(141008)
title:金星さまより



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