「餅は餅屋にあるなら、好きはす○家にあると思う?」 「は?」 突然彼女が意味の分かりかねることを口にしたものだから、俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。しかし彼女は至って真面目なようで、頬を膨らませながら「赤司くん『は?』とかひどくない?」などと小言を漏らしている。そう彼女、は少々風変わりな人間だ。その不思議な感性により感じたこと、思ったことをあまり吟味せずそのまま口に出す。しかし彼女の言うことは俺にとってはいまいち理解しがたく意味の分からないことばかりで、可笑しな奴だと常々思う。ただ悔しいがそういうところに惹かれたのもまた事実である。俺には無い感性を持つため、一緒にいると驚かされるというか、新しい発見をすることが以前よりも多い。は俺にそういう考えもあるのだなと気付かせてくれ、面白く愉快なことをたくさん教えてくれる、そんな人間だ。 「だってさ、餅は餅屋って言うじゃない?」 「それはな、何事においてもそれぞれの専門家に任せるのが一番良いということのたとえの諺だ」 「意味くらいわたしだって知ってるよ」 「じゃあ何が言いたいんだ」 「餅は餅屋にあるのなら、好きは○き家にあるのかなあ、って」 「理解しかねる」 「むー」 「そもそもす○家とは何だ?」 「えっ」 はいかにも信じられないという顔をしていた。す○家とはそもそも何だ。耳にしたことがないしましてや行ったこともない。バスケ部の奴らは知っているのだろうか。さらには行ったこともあるのだろうか。今度緑間にでも聞いてみようかと考えた。 「赤司くんに聞いたわたしがバカだった」 「はいつでも馬鹿なことを言っているよ」 「言ってないし!」 「赤司くんって蚊も殺さなさそうな穏やかな顔してるけど結構ひどいこと言うよね」とまたその薄紅の頬膨らませ、口を尖らせじとっとした目を俺に向けてくる。のその顔が、俺は何だか可愛くて好きだ。だからもっと怒らせてみたくなるし(おそらく心から怒ってはいないのだろうが)、苛めてみたくなる。なかなかにいい趣味をしていると我ながら感じている。 「俺はす○家とやらを知らないが、あるんじゃないか。その理論でいけば」 「あ、真面目に答えてくれるんだ」 「ただわざわざそこに行く必要はないと思うよ」 「どうして?」 「好き、なんてそこらじゅうに転がっているから」 「あ、確かにそうかも」 「だろう?ほら、ここにもね」 「え、」 俺がの手を掴みぎゅっと握ると、たちまちが顔を赤くさせる。その初々しい反応がたまらなく可愛らしい。「…急にそんなこと言うなんて卑怯だよ赤司くん」と空いているほうの手で顔を押さえながらまた文句を言うときのように小さく呟く。そういう不意打ちを食らった顔も、俺は好きだと思う。というか彼女のする表情、仕草、言葉、どれをとっても好きだ。彼女が唐突に投げかける理解しがたい疑問すらも、愛おしいと思ってしまう。彼女を見ていて飽きることはなく、一緒にいて心がじんわり温まっていく感覚がする。もし彼女を好きでなければ、俺は彼女をただの意味の分からない変な奴だとしか思っていなかっただろう。つまりこれが「好き」ということなのだろうな。彼女に馬鹿だと言っておきながら、自分もまた馬鹿だなあと感ぜざるを得ない。そもそも恋という非論理的でかつ非合理的な感情があるのがいけないのではないか。恋、それゆえに彼女のする言動にいちいち感情が揺さぶられて、今まで知らなかった自分の一面に気がついて。まあ、彼女のおかげで色々と見聞を広められるということか。…何だか悔しくなってきたな。 「の変なところもすべてひっくるめて、きみを好きだよ」 の頬は彼女の手によって塞がれていたので、俺は彼女の前髪を少し払っておでこに口づけた。そしてさらに彼女がぼんっと顔を赤くする様子を見て、俺はくすくすと笑いつつ胸に広がる温かみを感じ、彼女とのひと時を楽しむのだった。
すき、はどこ
(…赤司くんはずるい人だ)(きみもね) (140911) |