いつからか、征ちゃんは人が変わったようになってしまった。というか、実際に人格が変わったらしく、まさしく人が変わったのだった。わたしが当時戸惑っていると、人格が交代したのだと、征ちゃんは教えてくれた。彼は強い言葉を使い、人を蹂躙し、まるで絶対王政を敷く独裁者のようだった。今までのような柔らかい雰囲気をもった征ちゃんはどこかへ行ってしまった。しかし、彼が決して強くはないということをわたしは知っていた。彼は非常に脆い人だった。強い言葉を使う反面、その心はひどく脆く、一度何かがあればぐらっとそのまますべて崩れ落ちてしまいそうだと思った。それに気付いたとき、この人の心はわたしが守らなければいけない、と使命感を抱いた。わたしは、わたしだけは、絶対に彼を傷付けたりはしない。ありきたりな言葉だが、世界中の人々が彼の敵になったとして、彼を裏切ったとして、わたしだけは彼の味方だと、絶対に裏切ったりはしないと、そう誓っていた。何があっても、世界がどうなっても、わたしは彼の側にいることを心の中で決めた。

征ちゃんは人を捨て駒のように扱う。それをいつも側で見ていたわたしはいつからか恐怖するようになっていた。いつかわたしも彼らのように捨てられるのではないだろうか。そういった考えがわたしの脳内を占めていた。それは明日かもしれない。明後日かもしれない。一週間後、一か月後、半年後―――――。その日が来るのが、彼に捨てられるのが、本当に怖かった。わたしは彼の側にいたいけれど、それを決めるのはわたしじゃない。彼なのだ。わたしはいつ捨てられるのだろう。わたしはいつまであなたの側にいられるのだろう。けれど、そのときが来るまでわたしはあなたの側にいて、あなたを守ろう。いつか捨てられる日が来たならば、わたしはそれを受け入れて、あなたの迷惑にならないようにあなたの前から去ろう。そう、いつも心に強く誓っていた。



「なあに?」


征ちゃんの呼び声にわたしは答える。彼の声はとてもきれいだ。その凛とした、きれいな声で呼ばれるわたしの名前は、他の人に呼ばれるものと違って、とても美しくそして特別なものに思えてくる。あなたがわたしの名前を呼んでくれるかぎり、わたしは側にいられる。あなたを傷付けようとする一切のものからあなたを守れる。


「一緒に帰ろう」
「うん!」


嬉しくて、思わず声が大きくなる。ああ、彼だけがわたしに喜びを与えることができて、そしてわたしを意味あるものにしてくれるのだと強く思う。もし征ちゃんに捨てられてしまったら、きっとわたしには何も残らないのだろう。何も、いや、悲しみだけを感じながら生きていくのだろう。それはできるなら避けたいことだ。だけれど、それを決めるのはわたしではないから何とも言えない。できるならばあなたの側で、あなたを見つめて生きたい。でも今は、今だけは、そのようなことは考えずに今征ちゃんが与えてくれる幸せを噛みしめながら、征ちゃんの側にいよう。きっと今はそれだけが正しい。




君 世 界



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